🗓️ 最終更新日: 2025-11-09
- 22科・約200属・約2,000種という大規模な分類群で、分子系統学により3つの主要系統(A・B・C)に分けられます🔬
- 子実体の形態は杯状が代表的ですが、その他にもノボリリュウ型・アミガサタケ型・地下生のトリュフ型など極めて多様です✨
- 有弁子嚢(operculate ascus)を持ち、胞子放出時に蓋状構造が開くのがグループの最大の特徴といえます🍄
- 色彩は鮮やかな橙・赤・黒・褐色・白など変化に富み、カロテノイド色素を持つものが多いです🎨
- 栄養様式も多様で、腐生菌・外生菌根菌・寄生菌・細菌共生菌と、あらゆる生態戦略を持つ種を含みます🌱
- 胞子紋の色やアミロイド反応、側糸の形状など顕微鏡観察が同定の鍵となります🔍
- 経済的に重要な高級食用菌(トリュフ、アミガサタケ)と猛毒きのこ(シャグマアミガサタケ)の両方を含みます⚠️
- 分子系統学により地下生のトリュフ類が複数の科で独立に進化したことが判明した、収斂進化の典型例です📚
チャワンタケ目は子嚢菌門の中でも初期に分岐した古い系統群で、その名の通り杯状(チャワン型)の子実体を持つものが多いのですが、実際にはアミガサタケ型、ノボリリュウタケ型、そして完全な地下生トリュフまで、驚くほど多様な形態を示します。最大の特徴は「有弁子嚢」という胞子放出機構で、子嚢の先端が蓋のように開いて胞子を爆発的に放出します。分子系統学の発展により、従来の形態分類が大幅に見直され、現在も分類学的再編が進行中の活発な研究分野です。
チャワンタケ目は子嚢菌門・チャワンタケ亜門・チャワンタケ綱に属し、チャワンタケ亜門の中でもオルビリア目とともに最初期に分岐した基部系統群です。白亜紀および古第三紀に大きく放散しました。
最新の多遺伝子系統解析により、本目は3つの主要系統(A・B・C)に分けられることが判明しています。A系統にはチャワンタケ科(Pezizaceae)とスイライカビ科(Ascobolaceae)、B系統にはアミガサタケ科(Morchellaceae)・フクロシトネタケ科(Discinaceae)・ノボリリュウタケ科(Helvellaceae)・セイヨウショウロ科(Tuberaceae)、C系統にはベニチャワンタケ科(Sarcoscyphaceae)・クロチャワンタケ科(Sarcosomataceae)・ピロネマ科(Pyronemataceae)・ウスベニミミタケ科(Otideaceae)・ミミブサタケ科(Wynneaceae)などが含まれます。2021年の時点で22科が認識されています。
1990年代以降の分子系統学的研究により、従来の形態分類が劇的に見直されました。特に地下生トリュフ類はかつて単一の目とされていましたが、実際には本目内の複数の科で独立に進化したことが判明。また最大属の一つであるチャワンタケ属(Peziza)が単系統ではないことがわかり、14の系統群に分けられて、多数の新属が提唱されています。ミミブサタケ科は2020年にベニチャワンタケ科から分離された新しい科で、菌寄生という特異な栄養様式を持つことが判明しました。
蜂の巣のような頭部を持つアミガサタケ属(Morchella)が有名で、世界的に珍重される高級食用菌です。最新の研究ではブラックモレルとイエローモレルの系統に大きく分けられます。火災後に大量発生する種も知られ、多くは腐生性ですが外生菌根または植物内生菌としても機能します。注意点として、テンガイカブリタケ属(Verpa)は偽のアミガサタケ(フォルス・モレル)ともよばれる有毒のグループで、頭部が頂部でのみ柄に付着し、基部まで付着する真のアミガサタケとは異なっています。
完全な地下生でジャガイモのような形の子嚢果を形成するトリュフ類からなる科です。セイヨウショウロ属(Tuber)には約300種が含まれ、特にT. melanosporum、T. magnatumは世界最高級の食用菌として知られます。絶対的外生菌根性で、コナラ属やマツ属などと共生し、石灰質でpHの高い土壌を好みます。胞子散布は完全に菌食性動物(イノシシ、齧歯類など)に依存し、揮発性芳香成分で動物を誘引します。
特徴的な鞍状または不規則に裂けた杯状の子実体と、しばしば肋状隆起を持つ柄が特徴です。代表属のノボリリュウ属(Helvella)は外生菌根性で針葉樹・広葉樹と共生しますが、近年の分子系統解析により、形態的に均一に見えた本属に100種以上の隠蔽種が存在することが判明しました。
鮮やかな赤・橙・黄色の子実体が特徴的な科で、木材腐朽菌として広葉樹の倒木や枝に発生します。代表属のベニチャワンタケ属(Sarcoscypha)は冬〜早春に発生し、雪の下でも成熟します。分類学的には胞子の油滴数と配置、胞子鞘の有無が重要な形質です。熱帯から温帯まで広く分布し、日本にも数種が分布しますが、肉眼的な識別は困難です。
典型的な杯状子実体を持つ科で、最大で10 cmを超えるものもあります。子嚢がアミロイド反応陽性(一部系統で喪失)という特徴を持ち、先端に環状のアミロイド反応が見られます。キンチャワンタケ属のように橙色の鮮やかな種を含むグループもあります。腐生菌として、土壌、砂地、石灰質土壌、焼け跡など多様な基質に発生し、pHが高く有機物含量の低い撹乱地を好む種が多いです。一部の種(Terfeziaなど)は地下生のトリュフ型で外生菌根性です。
脳状に襞が入ったシャグマアミガサタケ属(Gyromitra)や円盤状のフクロシトネタケ属(Discina)、地下生のクルミタケ属(Hydnotrya)などを含みます。かつてノボリリュウタケ科に含まれていましたが、分子系統解析によりアミガサタケ科の姉妹科として独立しました。重要な注意点として、シャグマアミガサタケは猛毒で、ギロミトリンを含み生食は致命的です。調理しても中毒例があり、揮発性の毒もあるため要注意です。早春の針葉樹林に発生するものが多いです。
2020年にベニチャワンタケ科から分離された新しい科です。ミミブサタケ属(Wynnea)の特徴的な大型子実体は、地下の菌核様組織から発生し、ナラタケ属(Armillaria)を宿主とする菌寄生菌と考えられています。
チャワンタケ目の生態は極めて多様で、あらゆる陸上生態系で重要な役割を担っています。腐生菌として倒木、落葉、土壌有機物、糞、焼け跡地などを分解し物質循環に貢献し、外生菌根菌として針葉樹・広葉樹の広範な樹種と共生して森林生態系を支え、一部は植物内生菌やコケ植物の寄生菌としても機能します。
近年の研究により、従来知られていなかった栄養様式も発見されています。一部のトリュフ類は細菌と共生関係(bacterial farming)を持ち、細菌が産生する揮発性硫黄化合物がトリュフの香りの形成に関与していることが判明しました。また、ミミブサタケ属のナラタケ属菌に対する寄生は特異な事例といえます。ピロネマ科のコケ寄生菌(Octospora属など)は、コケ植物の仮根に寄生することが知られています。
発生環境も針葉樹林、広葉樹林の林床から草地、攪乱地、裸地まで多岐にわたります。特に焼跡地性の種(Pyronema、Anthracobia、一部のアミガサタケ)は火災の刺激により大量発生することが知られ、生態系の回復過程で重要な役割を果たします。季節性も多様で、早春発生型(アミガサタケ、シャグマアミガサタケ、ベニチャワンタケ)と夏〜秋発生型(ノボリリュウタケ、チャワンタケ)があり、トリュフは種により発生時期が異なります。
地理的分布は主に北半球の温帯地域に集中しますが、ベニチャワンタケ科、クロチャワンタケ科、ミミブサタケ科は熱帯地域にも普通に見られます。多くの属で北米とヨーロッパの種が別種であることが判明しており、高度な地域固有性と大陸固有性が認められます。特に中国はノボリリュウタケ属とトリュフ属の多様性の中心で、多数の固有種が存在します。
チャワンタケ目には経済的・医学的に重要な種が多数含まれます。アミガサタケ類は世界各地で栽培技術が確立されつつあり、高級食用菌として市場価値が高まっています。トリュフ類(特にセイヨウショウロ科)は食用価値だけでなく、抗炎症・抗酸化・抗ウイルス・抗菌・抗変異原・抗がん・肝保護作用を持つ治療化合物や揮発性有機化合物(VOCs)を産生することが報告されており、医薬品開発への応用が期待されています。また、一部の科(アスコボルス科、アスコデスミス科、ピロネマ科)では抗真菌活性を持つ化合物も報告されています。
実用的な同定の流れ:①子実体の形状を観察(杯状・円盤状・耳状・鞍状・脳状・アミガサタケ型・地下生)→②色彩を記録(橙・赤・黒・褐色・白など)→③柄の有無と形状をチェック(無柄・短柄・長柄、平滑・溝状・肋状)→④発生基質を確認(土壌・木材・糞・焼け跡・コケ・他のきのこ)→⑤顕微鏡で子嚢のアミロイド反応をメルツァー試薬で確認→⑥胞子のサイズ・形状・表面装飾を高倍率で観察。ここまでで大まかなグループには辿り着けますが、多数の複合種が存在するため、特にアミガサタケ類、ノボリリュウタケ類、トリュフ類、チャワンタケ属ではDNAバーコーディング併用が推奨されます。
各形質の対数尤度比(log positive likelihood ratio)を示しています。
緑色のカード:その分類群に特徴的な形質
オレンジ色のカード:他の分類群に特徴的な形質
グレーのカード:統計的に有意でない(95% CIが0をまたぐ)
信頼区間(CI)は95%信頼区間を示しています。CI下限が0を超える場合、統計的に有意な正の関連があることを示します。