🗓️ 最終更新日: 2025-08-17
ハラタケ科(Agaricaceae)は担子菌門最大級の科で、身近なマッシュルーム(ツクリタケ)から巨大なカラカサタケまで、驚くほど多様なきのこを含みます。最新の分子系統解析により、かつて別科とされていたキツネノカラカサ科やホコリタケ科も統合され、現在では400属以上を擁する大所帯に。共通点は胞子が成熟すると褐色〜チョコレート色になることが多く、襞は柄から離れる「離生」タイプであること。「原茸」の名の通り、森林ではなく草原に生えるものが多いですが、砂漠に生えたり、アリと共生したりする変わり者も含まれるグループです。
ハラタケ科は担子菌門・ハラタケ綱・ハラタケ亜綱・ハラタケ目に属する単系統群です。Singer(1986)の影響力のある分類体系では形態学的特徴と顕微鏡的特徴を組み合わせた体系が構築されましたが、21世紀の分子系統解析により大幅な再編が行われました。
最も重要な変更は、従来独立していたキツネノカラカサ科(Lepiotaceae)、ケシボウズタケ科(Tulostomataceae)、ホコリタケ科(Lycoperdaceae)がハラタケ科に統合されたことです(ただしキツネノカラカサ属はその後さらに、LepiotaceaeあるいはVerrucosporaceaeとして別の科に移す見解も)。これにより、ハラタケ型から腹菌型まで多様な形態を含む包括的な科となりました。近年もCandelolepiota属、Macropsalliota属などの新属が提案され、流動的な分類が続いています。系統的には「真正ハラタケ類クレード(euagaric clade)」の中核的な位置を占め、世界で約25,000種という膨大な多様性を誇ります。
世界で最も観察記録が多い属(iNat観察記録約16万件)。襞が白→桃→褐色と変化するのが最大の特徴で、栽培種のツクリタケ(A. bisporus)は年間生産量世界一のきのこです。野生種では切断時の変色反応が同定の鍵で、世界的には黄変してフェノール臭がする毒きのこ、A. xanthodermusが観察記録最多です。草地型、森林型など生育環境も多様です。発生時期も重要で、例えば春に生えるものはハルハラタケなど数種に絞り込めます。
大型のきのこで、観察記録は科内2位の約9万件。最も有名なオオシロカラカサタケは世界で唯一の緑色胞子を持つハラタケ科きのこで、それを反映して襞が緑色になるのですぐに見分けられます。北米最多の食中毒原因種で、日本でも中毒事例があります。一方、カラカサタケモドキは切断すると赤変する特徴があり、近年の研究で複数の隠蔽種を含む複合種であることが判明しました。
熱帯原産の小型種が多く、約5万6千件の観察記録。最も有名なコガネキヌカラカサタケは鮮やかな黄色で、世界中の温室や植木鉢で見つかります。傘の放射状の条線が顕著で、顕微鏡で見ると担子器の周囲に偽側糸(pseudoparaphyses)があるのがシロカラカサタケ属との区別点で、その他鱗片の菌糸の構造や、担子胞子の発芽孔の有無などが識別ポイントとなります。興味深いことに、L. gongylophorusは南米のキノコ栽培アリによって栽培される特殊な共生種です。
巨大なハラタケ型きのこで、約5万件の観察記録。カラカサタケのだんだら模様の柄は特徴的で、傘の直径は30cmを超えることも。可動性のつばも特徴的で、ヨーロッパでは人気の食用きのこです。マントカラカサタケのつばはリング状ではなくスカート状。アジアには固有種も多く、中国から複数の新種が報告されています。
熱帯・亜熱帯に多様性の中心があり、約3万件の観察記録。キヌカラカサタケ属と違って傘の条線が無いか不明瞭で、顕微鏡的には発芽孔や偽側糸を欠くこと、鱗片の菌糸構造などが相違点。分子系統的にはキヌカラカサタケ属と入り混じった多系統群を形成しますが、Micropsalliota属を加えると3属で単系統群になることが明らかになっています(Yang et al., 2024)。
砂漠や乾燥地帯に特化した特殊な属で、約7千件の観察記録。1771年にリンネがインドから記載した歴史ある属です。外見はホコリタケに似ますが中央に柄があり、シロアリの蟻塚に関連して生育することも。長年単一種とされていましたが、最新研究で少なくとも16種に分けられることが判明しました。
ハラタケ科の生態は驚くほど多様で、主に腐生菌として土壌中の有機物や落葉を分解しますが、それだけではありません。草地型のハラタケ(A. campestris)は牧草地を好み、森林型(A. silvicola)は林内に、キヌカラカサタケ属の多くは熱帯環境に適応しています。
さらに興味深いのは、Podaxis属の砂漠適応や、Leucocoprinus gongylophorusのキノコ栽培アリとの共生関係です。人為環境への適応も見事で、コガネキヌカラカサタケは世界中の植木鉢で繁栄しています。このような生態的柔軟性が、ハラタケ科を地球上で最も成功した菌類グループの一つにしているといえます。
野外同定の実践的手順:①まず襞の色を確認(白→桃→褐色ならハラタケ属、緑色ならオオシロカラカサタケで確定)→②傘の条線の有無(顕著ならキヌカラカサタケ属かも)→③柄の模様(だんだら模様ならカラカサタケ属かも)→④切断時の変色反応と香り。この順序で観察すれば属レベルまでは絞り込めるかもしれません!
各形質の対数尤度比(log positive likelihood ratio)を示しています。
緑色のカード:その分類群に特徴的な形質
オレンジ色のカード:他の分類群に特徴的な形質
グレーのカード:統計的に有意でない(95% CIが0をまたぐ)
信頼区間(CI)は95%信頼区間を示しています。CI下限が0を超える場合、統計的に有意な正の関連があることを示します。